2020年、趣味とチーム制作について

 2018年、2019年と年末に振り替える記事を書いていたので今年も書くか! と思っていたら年を越してしまい、年始に昨年を振り返る記事を書く羽目になってしまいました。
 ほぼ日記のような感覚で書きます。とりとめがない。

チーム制作について

 せっかくゲーム会社にいて周りにスキルを持った人がたくさんいるんだから、自主制作っぽいことをしたいなと思って、会社でゲームジャムを企画しました。
 ゲームジャムというのは、チームを作って短期間でゲームを制作するイベントのことです。これを会社の公式行事的に業務時間を使って行う会社もあるみたいですが、そうもいかなかったので9月の4連休のうち3日を使って開催することにしました。

 3日あると意外とゲームはできるもので、2チームに分かれて制作したのですが、どちらのチームも遊べるものが出来上がりました。

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ゲームジャムで作成したゲーム。プレイ中の画面がなかったのでGameOver時の画面。テーマは「足あと」で、交差点を歩く足跡の進行方向を操作して、足跡同士がぶつからないように交差点へ誘導するゲームになりました。結構難易度が高くて脳が混乱しますが、楽しかったです

 これがうまくいったということで、ゲームを自主制作するサークルのようなものを主催することになりました。
 初めはゲームジャムは3日でできたんだから1, 2か月あったらそれなりのものができるだろうと思っていたのですが、3か月弱たってもまだ完成していません。やはり時間が無制限と言われると、いろいろとこだわりたくなったりしますね。ただ、僕は飽きっぽいので出来れば短期間で作ってしまいたいです。

 仕事ならば賃金の対価というのもありますし、毎日決められた時間に作業をするので習慣になり、長期間でもそこまで苦にはならないです。ただ、趣味となると自分で時間を作る必要があって、そのためには強いモチベーションが必要になりますが、長期間になると保つのはやはり難しいですよね。

 そこで大切なのはやはり自分が面白いと思うゲームを作ることだと思うのですが、チームだと自分の価値観と作っているゲームの方向がずれていくこともあります。これが一番難しいなと思った点です。

 もちろん自分の予想が間違っていて、自分が考えるより面白くなることはあると思いますが、肝心なのは自分があんまり面白くないんじゃないの? と思っているものを確かめるために作るというのはかなり腰が重くなるということです。

 こういうことは仕事としての制作でも、どの会社でもあることだと思います。だいたいはディレクターなどの意思決定者が方向性を定め、メンバーはそれを信頼することによって成り立っていると思います。

 ただ、今回の制作ではチームの意思決定を民主制にしたことによって話がややこしくなってしまった気がします。みんないい人なのでお互いに気を使って他の人が気持ちよく作れるように、と他の人が入れたい要素を入れこもうとします。その結果、ゲームがうまくまとまらなくなって、何がこのゲームのコアなんだっけ、という話になりますが、結局は作ってみないと分からないよねと落ち着きます。

 まあ、いろいろ言っていますが、まだ制作途中なので結果どうなるかわかりません。民主制にしてやっぱりよかったねとなるかもしれないし、結局は作ってみないと分からない……

 早く完成させたいです。

趣味

 今年はやたら趣味に使う時間が増えた気がします。どんな事をしていたのか、興味がある人がいるかわかりませんが書いておきます。

競技プログラミング

 2019年に引き続いて競技プログラミングをして、AtColderで青色になりました。

 ところで、まったく無意味なこだわりなのですが、青色になるまではコンテスト以外で問題を解かないようにしていました。でも、水色の後半から半年以上停滞していましたし、ここから上に行くためにはちゃんと精進しないといけないんだろうなと思って毎週Twitchで配信しながらAtCoder過去問を解いていました。

 結局1か月くらい続きましたが、この習慣を始めてからどんどんレートが落ちて行って水色に下がってしまい、全然青に復帰できずにモチベーションをなくして7月11日を最後にやめてしまいました。

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AtCoderのレート推移

 思えば僕はいつもコンテストでヒリつきながら集中することで問題を解いていました。ですが、配信でダラダラ喋りながら問題を解くのを習慣にしたせいで、本番でもダラダラ考えて集中できなくなってしまっていました。

 練習では一問ずつ喋りながら解くよりバーチャルコンテストを集中して解いた方がたぶん良いです。僕の性格的に、一度飽きたことでも唐突に再開したりするので、また競技プログラミングをやりたくなることもあると思います。その時は全身の毛を逆立て青筋も立てながら精進しようと思います。

ダーツ

 高校の時の友達がダーツを始めたと聞いて、始めてみました。せっかくだったらマイダーツも、と思って調べると、値段も手ごろだったのですぐに注文しました。一応リンクを貼っておきます。
https://www.amazon.co.jp/dp/B081YMC6GL

 これまでもダーツは遊びで何回かやったことがありましたが、正直、戦略性はそれほどないですし、ブルに入ったら気持ちいいなぁというくらいの印象しかありませんでした。マイダーツを買ってからしばらく週に一回くらいやっていてもあまり印象は変わりませんでした。

 ですが、つい最近ダーツバーの店員さんに投げ方をちゃんと教えてもらってから、とても楽しくなりました。

 今までは腕の力で結構無理やり投げていて腕が無駄に疲れていたのですが、手首を使って自分が一番自然にダーツを放てるようにすることが大事で再現性も高まるということです。確かに考えればそうなのですが、教わった通りに投げると全然力を入れなくてもちゃんと飛びますし、何より投げるだけで気持ちいいんだなと思いました。

 まだ新しい投げ方に慣れていないのもあって下手なのですが、2021年も引き続き練習したいなと思います。

 あと、知らなかったのですが、DARTSLIVEというダーツ台に対応したDARTSLIVEカードというものがあります。このカードを台に挿してプレイすると自動でプレイデータが収集され、レーティングが付きます。これはスマホアプリから見られるのですが、人と対戦すると一試合ごとにリアルタイムで更新されるのでめっちゃ気にしてしまいます。レーティングや実力の数値化が好きな人にはおすすめです。

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僕のDARTSLIVEカード。かわいい

ビリヤード

 高校の友達にダーツを誘われたのとちょうど同時期に、大学で入っていたビリヤードサークルの友達から4年ぶりくらいに連絡がきて、ちょうどいいなと思ってビリヤードも再開しました。最近通っているお店はビリヤードとダーツもあるので一石二鳥です。昔に比べてめちゃくちゃ下手になっているのですが、ビリヤードも撞いて球が入るだけで楽しいので良いです。

ピアノ

 2019年から細々と練習を続けています。2019年には一曲も弾ける曲がないと言っていましたが、何曲か弾けるようになりました。でも、悲しいことに、少し時間を置くと全然弾けなくなりますし、定着はしていません。一度でも弾けるようになった曲、と言った方がよさそう。

 ピアノが弾ける友達にお勧めしてもらったJAZZ STANDARD BIBLEというジャズの本などを練習したりもしました。楽譜はちょっとずつ読めるようになってきましたが、同時に両手分は無理です。その点ジャズの本はコードとメインの旋律しか載っていないので見やすいです。ただ、ジャズに詳しくないのでメロディが思い浮かばず、弾いてもあっているのか分からないという難点があらたに出てきます。
 なので、気が向いたときに本に載っている曲を聴いています。

 今は一時期ピアノ系のYouTuberがこぞって弾いていた夜に駆けるを練習しています。初心者向けのものは弾けるようになって、今は初級者用に挑戦しています。

将棋

 1か月ほどすごくハマって毎日3時間くらい指していました。頭の回転は速くないのでそんなに強くはないですが、今まで将棋ウォーズで2級が限度だったのですが、1級になれました。もうちょっと頑張れば初段になれそうだなと思うのですが、精神をすごく使うのでちょっと休憩、という気分で適当に3分切れ負けで遊んでいるうちに飽きてしまいました。
 今は無課金でできる上限の1日3局だけ指しています。

 2019年から引き続き絵を描いています。一年を通して趣味が続いていました。振り返りのために、時系列順で描いた絵を紹介していきたいと思います。

前半

 いいなと思った絵や写真を模写したり、動画を見ながらクロッキーをやったりして、その合間に気が向いたら二次創作やオリジナルをする、というのんびりペースで絵を練習していました。

 twitterで、はなぶしさんというアニメーターの方を知ったのですが、その方のピギーワンという画集を買うために、人生で初めてヴィレッジヴァンガードに行きました。下の画像はその画集に乗っているキャラクターのファンアートです。
 描いたときにはまだ名前のないキャラクターだったのですが、その後「ずっと真夜中でいいのに」の「お勉強しといてよ」のアニメPVに出てきたりしています。映像がすごいカッコいい。  

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ピギーワン シャミィ, 2月29日

 下の画像はとあるゲームのイラストコンテストに出したものです。色はピギーワンに使ったパレットを使いまわしたので色味が似ています。
 線をきれいに描こうと意識しましたが、髪のあたりの塗りが雑ですね。あと胸の形もなんか不自然……。これのために有休までとったのですが、最終的に時間が全然足りなくて、提出したのは締め切り3分前でした。卒論を5分前に提出したのを思い出しました。
 結果は箸にも棒にも掛からず。

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微々堂 美々実, 4月5日

 これは「イエスタデイをうたって」というアニメにはまって描いたハルちゃん。アニメは落ち着いた雰囲気で登場人物の心の機微を丁寧に描いていて、とてもよかったです。好きなイラストレーターのイリヤ・クブシノブさんも原画を一部描いていたらしいのですが、手書き風の絵も全編よかったです。

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野中晴, 4月18日

 下の画像は写真の模写ですが、結構うまく書けたんじゃないかなと思ったので載せます。ちゃんと完成させるぞという気持ちでは書いていなかったのでサイズを大きくすると雑さが目立ちますね。この時期は薄い黒を重ねて色の濃さをだすのにハマっていました。  

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プリコネのキャルのコスプレをする人, 6月8日

 次に、二次創作をしようと思ってアイドルマスターシャイニーカラーズの芹沢あさひさんを描きました。絵の練習用twitterは全然フォロワーがいないのですが、二次創作だとフォロー外でも見てくれる人がいてうれしい気持ちになります。

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芹沢あさひ, 7月19日

後半

 8月ごろに会社のSlackに描いた絵を挙げるチャンネルができました。そこに何かをあげたいと思って毎日お昼休みに絵を描くようになりました。  昼休みに書き上げようと思うとあまりに時間がなく、構図から考えると絶対に間に合わないので模写ばかりになりました。

 こういう練習もチャンネルに貼ります。  

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昼休みの練習 9月2日

 あとはイラストの模写も。上で挙げたハルちゃんは二次創作なんですが、これはイエスタデイをうたってafterwordの表紙絵の模写です。でも今見るとだいぶ表情が違う。  

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野中晴(模写), 9月15日

 そうやって練習していたら会社のデザイナーの方に紹介されて、月に一度街角でスケッチをする会に参加しました。そこで最初に書いたスケッチがこちらです。

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初めてのスケッチ, 9月26日
 時間配分が分からず色が塗れず、何も得ず……  他の参加者の方の絵を見せてもらうと紙とペンで書いている人が多く、触発されて電車や喫茶店などでクロッキー帳を出してスケッチを練習するようになりました。

 昼休みの練習でも風景写真の模写をやってみました。一番右については昼休みだけでなく家で気合を入れて書きました。

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写真の模写 10月9日~17日

 そんな練習をして10月のスケッチ会に臨みました。結果。

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浅草寺, 10月25日

 うん……。全部を描こうとしてるのはいいんですけど、そんなにとがってない鉛筆でざらついた紙質のスケッチブックに書こうとしているのでいろいろつぶれるんですよね。

 ちなみに本当の景色はこんな感じです。  

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浅草寺

 全然うまく描けなかったなぁ、と思いながらアナログで書いている他の方を見ると、全員線をペンで書いているんですよね。確かに、グラデーションを付けるなら鉛筆で筆圧変えながらやる方がいいかもしれませんが、線画で表現するなら線がはっきり出るペンの方が印象が良くなります。これ以降アナログスケッチはペンでやることにしました。

 また、参加者の方で映画のワンシーンを模写しているという方がいて、色面の取り方とかカッコいいなと思ったので僕もやってみました。全体がちょっとくすんだような色になっていると、肌の色でこういう色を選ぶとこういう印象になるな、みたいなことを考えるのが楽しかったです。  

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TENET, 10月29日

 でも、昼休みで練習するにはちょっと規模が大きいので続きませんでした。

 ところで僕は全然ファッションが分からないです。そのせいでオリジナルで絵を描くときにも、どんな服を着せるか全然思い浮かばずに困っていました。じゃあファッションの紹介みたいな写真を模写すれば絵の練習とファッションの勉強が同時に出来て一石二鳥では? と思って昼は服の練習をするようになりました。  

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服の練習のための模写, 11月5日~10日

 たまに腰を入れて模写したり。

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服の練習のための模写, 11月8日

 続いて、スケッチ会を教えて頂いたデザイナーの方に誘われてカフェでスケッチをしたときのものです。色の置き方がやっぱり悩ましかった記憶があります。錯視などで周りの色によって見え方が全く変わるように、見えている色と置くべき色の印象が全然一致しません。でも雰囲気がなんとなく出ている気がするので、ヨシ!

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原宿のカフェ, 11月13日

 そんなこんなで11月のスケッチ会もやってきました。場所は目黒駅の近くにある庭園で、建物を描きました。大きさの目測をミスって全然収まっていはいないですが、印象は前回よりとてもよくなったんじゃないかと思います。  

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東京都庭園美術館, 11月29日

 このスケッチ会では職場の別のデザイナーの方が初参加をしていて、その人がスケッチブックにクロッキーを大量にしていたのを見て、影響されやすい僕はまたクロッキーをやりたくなって昼休みの練習でクロッキーをすることが多くなりました。

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New Masters Academy クロッキー, 12月4日~8日
 一番左は何も考えずクロッキーをしているのですが、中央と右はLine of Actionという、体の動きを表す曲線を意識しようと思って練習しています。YouTubeなどでクロッキーのやり方を教える動画をいくつも見ましたが、どれも上手すぎて、上手いということしか分からないですが、なにかしらうまくなっていけたらいいなと思います。

 最後は、ファッションの練習で書いたものです。体のラインがきれいだったのでラインを意識しながら、さらに顔のデフォルメを強くしてみたりしています。本当はこれをアレンジしてちゃんと塗って作品にしようと思っていたのですが、まだできていません。

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服の練習のための模写, 12月11日

 12月にもスケッチ会はあったのですが、Qiitaの記事を書いたりするのに忙しかったのでパスしました。年末休みに作品を一つ作ろうとも思っていたのですが、掃除に思った以上に時間がかかったのと、Mac miniを買ったのでセットアップなどしていたら時間がなくなってしまいました。

 後半はあまり自分の作品っぽい絵は描いていなくて、それが結構心残りです。

 ところで、最近読んだ絵の成長記がすごかったです。
note.com

 定期的にきっちりと作品を完成させていて、それに対して自分のやったことと課題をまとめ、次の作品ではそれを踏まえたうえでバージョンアップしていくという、努力の正しい在り方をまざまざと見せつけられます。

 正しい努力ってとても頭を使いますよね。僕は結構苦手です。でも、年齢もある程度重ねてきて、もう何も考えずに練習をしても到底一流には届かないのだろうなと思います。僕の課題です。

終わりに

 振り返ると結構たくさん絵を描いてきたんだなと思いました。そして、趣味が多すぎる気がします。分野を絞って専門家になった方がいいんだろうなとは思っているんですが、本能が雑多を求めてしまいます。本職がプログラマなのにプログラム関連の話が全然ないのもどうなんでしょうね。良くはないですね。

 さて、2021年は

  • チームで作っているゲームを完成させる
  • 頭を使って趣味に取り組めるようになる

を今年の目標としておきます。

 それでは、あけましておめでとうございます。

Magic: The Gatheringでお話を作る

 最近Magic: The Gatheringを始めました。
 Magic: The Gathering ArenaというPC用ゲームで普通に対戦することもあれば、職場の人と独自ルールで戦ったりしています。
 その独自ルールの中の一つで、カードをドラフトで15枚引いて、引いたカードの名前やフレーバーテキストを使用して物語を作るというものがありました。
(ドラフト:15枚入っているブースターパックを一人一つずつ開け、その中から一枚とって横の人に渡すことを繰り返す)

 職場の人にしか見せないのも勿体ないなと思ったのでここに上げておきます。



『盗み得ぬもの』(使用枚数14枚)

 新春の早朝の冷え切った空気が石造りの教会内に重々しく立ち込め、司教の枯れた声だけがそれを震わせている。
 ジェイデンはずっとこの日を待ちわびていた。彼はアーデンベイルの若年の騎士である。正確には、この儀式をもって騎士となる。周囲にはジェイデンと同じく、栄光あるアーデンベイルの騎士として認められることに胸を高鳴らせる者たちが円形に並んでいる。彼らは円の中心へと己が剣をまっすぐに突き出し、各々の決意の表明としていた。司教の声は次第に辺りと共鳴し、協会内の至る所からまだ己の形を保てない精霊が現れ、銀色に煌めいた。それらはジェイデンらの円の内側へ渦巻くように集まり、炎のように揺れて剣と鎧を輝かせる。この儀式が『銀炎の儀式』と呼ばれる由縁である。
 炎はやがてそれぞれの剣の先へと分かれ、一つの姿を顕現させる。精霊の姿はその精霊が核とする思いによって決まる。周囲を見ると、既に馬や雄牛、キマイラの精霊が自らの主人となる騎士を見定めているようである。そして最後にジェイデンのもとへ現れた精霊は、獅子の体躯に若い鷲の頭部と翼を携える、若いグリフィンだった。グリフィンの視線にジェイデンは応えた。目はそらさない。
 そのままどれだけの時間がたっただろう。足は地面を感じられないほど冷え、手の熱は絶えず剣を伝って放出された。しかし、心だけが銀炎に照らされ、消して冷めることはなかった。それが確かに伝わったのだろう。グリフィンは静かに頭を下げ、目を閉じた。
 こうしてジェイデンは精霊と契約し、騎士となった。

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 王女、シエンナは数日間ずっと落ち着かない様子だった。気もそぞろに宮廷の庭を歩き回っている。
「ああ、イザベラじゃない。ねえイザベラ、あなたの時は、あれ、何日で戻ったのでしたっけ」
 城門近くで呼びかけられたのはアーデンベイルの聖騎士、イザベラである。金色に輝く髪を揺らせ、いつもの生真面目な顔でイザベラは小さくため息をついた。
「心配なのはわかりますがその質問はもう5回目ですよ。シエンナ」
「だってだって、もう彼の出立から四日になるのよ。あなたは二日で帰ってきたのでしょう? もう帰ってきてもいいじゃない。それなのに――」
「シエンナ。自分で言うようなことではないのですが、私は歴代の騎士の中でもかなり早い方でした。普通は四、五日かかるのですよ、神秘の聖域での初めの修練には」
 イザベラはすこし決まりが悪そうに遮った。
「でもでも、私、彼は優秀と聞いたわ。精霊だってあなたと同じグリフィンだったのでしょう? だったら彼だってもう帰ってきてもいいはずよ」
「それほど単純ではないのです。行って戻ってくるだけであれば一日でも足りましょうが、それでは修練になりません」
「それは、まあ、分かるわよ。じゃあ実際に神秘の聖域では一体なにを――」
 再びイザベラが遮る。
「申し訳ありません、シエンナ。人に呼ばれている道中なのです。続きはまた話しますから」
 シエンナは頬を膨らせて不満を表そうとして、そこで城門から黒馬に乗って入ってくる者に気がついた。
 それはアーデンベイルの友好国、ロークスワインの聖騎士モリーであった。随分と急いできたようで、馬は白い息を噴き上げ、モリーも額に汗をにじませている。
「ああ、シエンナ殿、お久しぶりです。イザベラ殿も」
 モリーとシエンナとは社交界で何度か面識はあったが、特段親しいわけではない。一方、イザベラとは国は違えど聖騎士という立場を同じくするもの同士、打ち解けている様子だ。
 シエンナは軽く会釈をしておいた。
「ええ、モリー。急に伝書を寄越してどうされたのです? ……一人ですか?」
 聖騎士が一人で他国へ赴くなど、そうないことである。
「ああ。至急の話があるのだ。私にも訳が分からないことで混乱しているのだが」
「わかりました。では中へ」
 どうやらこのままシエンナとの会話は打ち切られてしまうようである。
「イザベラ、神秘の聖域の話は今度ちゃんと聞かせてもらうからね」
 シエンナはそういって無為な散歩を続けようとした。しかし、その言葉を聞いた途端にモリーが目を剥き、顔が青ざめるのが確かにわかった。
モリー? どうしましたか?」
 イザベラもモリーの様子に気付いた。
「いや、なんでもない。さ、早く」
 そのままモリーは連れられて行ってしまった。

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「怪しいわ」
 シエンナは一人呟く。モリーの様子を見るに、神秘の聖域で何か異変があったに違いない。
 気になりだせば止まらないのがシエンナの性分であった。
「城は文字通り私の庭。盗聴も乙女のたしなみってね」
 ここは、二人の聖騎士、イザベラとモリーが入っていった部屋のちょうど裏側に位置する。面する壁には薄くなっている場所があることをシエンナは知っていた。耳を当てるとかすかに二人の会話が聞こえてくる。
「……そういえばシエンナ殿とのお話を遮ってしまったようで、すまない」
「いえ、大したことは話していません。それに、あの子はそそっかしいところがありますから、下手なことは聞かせないほうが良いのです」
 自身の話題にシエンナは口を尖らせた。
「なによ、イザベラったら……」
 二人の会話は続く。
「では、本題に入ろう。七日前、我らがロークスワインの王が恒例の儀式のために神秘の聖域へと赴かれた」
「神秘の聖域ですか。どのような儀式です?」
「ロークスワイン全土の精霊の安寧を祈る儀式だ。アーデンベイルにも似たようなものはあると思う」
「ええ、あります。確かに、精霊関連の儀式であれば精霊の生まれる地、神秘の聖域へ行くのは必定です」
 事実、アーデンベイルの王も三月ほど前に同様に神秘の聖域へ訪れているし、イザベラ自身も神秘の聖域へは何度も足を運んでいる。新たに騎士となったものが必ず初めに神秘の聖域へと修練へ向かわされるのも、契約を交わしたばかりの己が精霊と対話するためである。
「そう。儀式自体は毎年のことだ。神秘の聖域もさほど危険な場所ではない。だが、陛下の消息が絶たれたのだ」
「どういうことです?」
「言葉通りの意味だ。本来は三日ほどで帰るはずの旅路であるのに王は今まで戻って来ず、知らせも来ない。王の出立から五日後に、私は騎士団を連れて神秘の聖域へと向かった」
 シエンナは息をのんだ。一国の主の安否だけではない。ロークスワインそのものを揺るがす事件のようである。
「何があったのですか」
 イザベラは再度問うた。
「到着したときは、まだ日も出ていて特に異変も感じられなかった。そのまま私たちは聖域の奥へと進んだ。次第に辺りは暗くなるが、儀式は中心の洞窟で行うから、そこまでは休まずに進もうとしていた。そして、日が沈み切ってしばらくした時のことだった」
 モリーは恐ろしいものを飲み込むようにゆっくりと息を吸い、続けた。
「突然辺りに禍々しい気配が立ち込めたのだ。我々のほとんどが異変に気付いた。その直後、前方からカラスが大群をなして飛んできたのだ。脇へそれてやり過ごそうとしても、どうやら我々を狙っているらしい。呪文でも迎え撃ったが、数が途方もない。カラスは一人の騎士を大群で取り囲んでほどなく、彼は倒れた。我々は一人、二人と次々に襲われた。私は撤退を指示したが、逃亡のさなかも猛襲はやむことなく、聖域を抜けたときに残っていたのは私だけだった」
 イザベラは絶句しているようだった。
「イザベラ殿、頼む。アーデンベイルの力を貸してくれないだろうか。無理なことを言っているのは分かっている。しかし我々の王、並びに騎士団を失えば、ロークスワインは確実に揺らぐ。そうなるわけにはいかないのだ」
「……しかし、王や騎士団が生きている保証はないのでは?」
「司教がいうには、まだ彼らと精霊の契約は切れていない。彼らは生きている」
 イザベラは大きく息を吐いた。
「私一人で手に負える問題ではありません。我が国の王に打診いたします」
 そのまま会話は終わった。
 そのときすでに、会議室の壁の向こうにシエンナの姿はなかった。神秘の聖域で修行をしている想い人に危機が迫っている。いや、もうすでに命を失っているかもしれないのだ。シエンナは居ても立っても居られなくなり、城を飛び出した。


 城郭都市アーデンベイルから少し外れた丘に、古い教会がある。アーデンベイルにおいて騎士と精霊の契約は全てここで執り行われている。
 シエンナは使用人の目を盗んで自分の馬を出し、この教会まで走ってきた。彼女の想い人、ジェイデンの無事を確認するためである。辺りでは早朝に降りた霜が解け始め、まだ高くない陽に照らされてきらきらと光って少し眩しい。
 馬を停めて中へ入ろうとしたとき、シエンナはふと冷静になった。万が一、もう命がないとしたら、そうですかと納得できるのだろうか。あるいは、たとえ今無事だったとして、先ほど聞いた話からすれば到底安心はできない。彼の生死を知って私はどうしたいというのか。私は――
「あれ、シエンナじゃん」
 突然背後から声をかけられ、シエンナは飛び上がりそうになった。
 声の主はアーデンベイルの戦術家として名高い才女、ソフィアである。シエンナとは気が置けない幼馴染だ。
「ソフィア! ど、どうしたの? こんなところで」
「ええと、今、新しい武器を作ってて、その相談」
「武器? でもここらへんに工場なんてないじゃない」
「対精霊用だから、この教会で作ってんの。ほら、これだよ」
 ソフィアは懐からロケットペンダントを取り出し見せてきた。中には緑色の鉱石のような結晶が入っているが、とても武器には見えない。
「魔力を込めて使うの。効果は強いんだけど、影響範囲が狭いのが難点なのよ」
 ソフィアはロケットを持つ右手を横へ突き出し、魔力を込めた。すると、その手を覆うほどの範囲に淡い緑色の光が現れた。
「私の魔力量だとこれくらいが限界。シエンナは魔力が強いから全身を覆うくらいには広がると思うけど」
 魔力の強さはその血統、生まれもった素質が大きい。王家の直系であるシエンナは平均よりかなり強い魔力を持っている。
「この光に触れるとどうなるの?」
 光を指さして、シエンナが尋ねた。
「精霊がほどける」
「ほどける?」
「精霊の体を一つに繋ぎとめている力があるんだけど、それを無力化するの。だから、精霊がこの光に触れた部分が、そのまま元の姿、つまり空気中を漂う微細な精霊子に戻るんだよ」
「なんか、怖い」
 精霊は人や獣の想いを核とする存在である。それが『ほどける』というのは、何か言い知れない寒気があった。
「兵器だからね。これを作るのに、最近はずっと古い魔術書とか禁呪とかと格闘してるんだ」
 そう語るソフィアは、シエンナが幼い時から見てきた無邪気な笑顔だった。
「あ、あんまり使ってると、この子が怖がっちゃう」
 ソフィアは後ろを一瞥した。おそらくそこに彼女の契約した精霊がいるのだろう。普段の精霊は契約した本人にしか見えないため、シエンナは察する他はないが、体を縮こまらせて震えていてもおかしくはない。この光は精霊にとっておそらく天敵のような存在に違いないのだから。
 ソフィアの右手を包む光は魔力が断たれるとすぐに消えた。
「ところでシエンナはどうしてここに来たの?」
 ロケットを懐にしまいながらソフィアが尋ねた。
「ちょっと、その、気になることがあって」
「気になること……、あ、わかった。さてはジェイデンのことね。彼が騎士になって初めての旅だから心配なんでしょ。じゃあ、ついでに彼のこと聞いといてあげるよ。ちょっと待っててね」
「え、あ、うん」
 シエンナが親友の察しの良さに驚愕する暇もなく、ソフィアは教会へ入っていった。
 ソフィアは昔から人の話をよく聞かないが、しかしまるで心が読めるかのようにこちらの考えを理解する。論理的に妥当なことを推測しているだけ、と本人は語っていた。頭が切れることは間違いない。
 手持無沙汰になり、壁にもたれかかる。シエンナは考えていた。今、自分がしたいこと。
 しばらくしてソフィアは戻った。
「お待たせ。神秘の聖域に行った新米騎士はまだ誰も死んでないって。司教様に聞いた」
 カラスの大群に襲われたロークスワインの騎士たちも誰も死んではいないと言っていた。死んでいないから無事というわけではない。シエンナは、自分の決心をソフィアに伝えることにした。
「ねえ、神秘の聖域に一緒に行ってくれないかしら?」
「え?」
「お願い。ジェイデンを助けたいの」
 シエンナは先ほど盗み聞いた話を伝えた。
「ふうん、大量のカラスに倒れた騎士、帰ってこない王様……」
「やっぱり、危ない……かな?」
 考え込むそぶりを見せるソフィアに、シエンナは少し不安になった。
「面白そうじゃん。怪しい魔術の香りがするわ。じゃあ、早速」
 そう言ってソフィアは指笛を吹き、グリフィンを呼んだ。騎士とグリフィンの絆は強く、呼べばどこであっても来る。
「いいの?」
「シエンナが誘ったんじゃない」
「そうだけど……」
 シエンナはとっさに俯いてしまう。自分が行ってできることなんてあるのだろうか。ただ危険に身をさらして、親友を傷つけてしまうかもしれない。ソフィアが無事で自分だけが傷ついたとしても、きっとソフィアは責められてしまう。イザベラとモリーも動いている。二人に任せるのが良いのかもしれない。私は一人、城の自室で待っているのが――
「行きたいんでしょう?」
 顔を上げると、ソフィアが真っ直ぐに見つめていた。そうだ。自分が決めたことだ。シエンナは覚悟を決めて、しっかりと頷いた。
 ほどなく空から羽音が響く。
「行こうか」
 二人はグリフィンへ跨り、そのまま大空へ飛び立った。
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 二人の聖騎士、モリーとイザベラは馬を走らせていた。二人が向かうのは件の場所、神秘の聖域である。
「申し訳ありません。ロークスワイン国の危機に力を貸すことができず」
 イザベラがアーデンベイルの国王に事情を話して助力を打診したが、それは敢え無く断られた。
「いや、良いのだ。正式な書面もなく、話の証拠もない。一つの騎士団を動かすにはリスクも大きすぎる。イザベラ殿が共に来てくれただけでもアーデンベイルまで来た甲斐があった。心から感謝する」
「友の頼みに応えるのも私の、騎士としての矜持です」
 国王の許可が得られなかった以上、イザベラのこの行動は独断によるものである。だが、それによって罰されるようなことはないだろう。国王はそれほど狭量ではない。それより恐れるべきは、神秘の聖域に待ち受けるものである。イザベラは一つ策があった。
 聖騎士の扱う馬の速さはグリフィンにも劣らない。二人はすぐに神秘の聖域へたどり着いた。
 辺りは厚い雲が立ち込めていた。さらに生い茂る樹木で光は遮られる。まるでこの空間だけは夜であると主張するようであった。
 突然、先行するモリーが足を止めた。
「あれが見えるか?」
 モリーの指さす先を見ると、湖畔に人影のようなものが二つほど見えた。目を凝らすとどちらも長い髪の女のようである。イザベラはその特徴に覚えがあった。
「マーフォーク……のようですね。まだ昼のはずなのに、この暗さのせいでしょうか」
 神秘の聖域に生息するマーフォークは夜行性で、往時の遺物を求めて月光を頼りに湖の浅瀬を探索する姿から月明かりの掃除屋と呼ばれる。また、平時では危険の少ない神秘の聖域において、彼女らは唯一の懸念事項である。一人歩きの旅人などは、その武器や装飾品を目当てに襲われることも少なくない。一方で、相手の力量が自分たちより上と判断すると敵対せず、むしろ従順な態度を見せるような狡猾さを兼ね備えている。
「おい、掃除屋。聞きたいことがある」
 モリーは馬を降りてマーフォークに近づき、話しかけた。聖騎士二人を相手取って争うようなことはすまいという判断である。
 彼女らは声に反応して振り向いた。しかしどこか困惑した表情で、呼びかけられたのが自分たちであると認識していないようだった。
「マーフォーク。お前たちのことだ」
「私たち……に、何か用か?」
 マーフォークの一人が恐る恐るといった風に答えた。
 その様子にイザベラは訝しんだ。どこか様子がおかしい。狡猾な掃除屋がこのように敵対するとも従順するともつかない曖昧な返答をするなど、経験したことがなかった。
「近頃この辺りで何か異変は起こらなかったか?」
 モリーは構わず続けた。
「……分からない」
 やはりどこか自信のない声が返ってくる。
「分からないとはどういうことだ? お前たちはここに住んでいるのだろう?」
 モリーは語気を強めて再び問うた。マーフォークは隠すこともなく表情に恐怖を浮かべる。
「分からない。私たちには、何も!」
 そう言うや否や、彼女らは湖へ後ずさり、二人から逃げようとした。
「おい、どういう――」
モリー、あれを見てください!」
 呼び留めようとするモリーの肩を掴み、イザベラが指さした先には遠く、黒い靄をまとった塊が迫ってくるのが見えた。その塊は徐々に近づいてきて、一つ一つの形が明らかになっていく。
「カラスだ! くそっ、もう来たのか」
 モリーは舌打ちしながら馬へ飛び乗った。
モリー、私から離れないでください!」
 そういってイザベラは呪文を唱え始めた。カラスはみるみる近づいてくる。
 モリーが横を一瞥するとマーフォークもそのカラスにひどく怯えて湖へ入るも、まだ浅瀬が続くようで身を隠すことはできない様子である。
 しかし、カラスらはマーフォークには用がないとでもいうように、真っすぐにこちらを目掛けてきている。もう数秒としないうちにカラスの先頭が到達する。
「まだか!」
 モリーが叫んだ瞬間、イザベラを中心に光の壁が形成された。そこへ突撃した初めのカラスが弾かれ、全身が燃え上がるのも同時であった。
 イザベラの策、それは結界呪文であった。
 結界呪文は文字通り自身の周囲に防護壁を立てる、アーデンベイルが得意とする呪文である。強大な敵や、一極へ集中するような攻撃には効かないことも多いが、モリーの話から、カラスの個としての力は強くないと判断した。
「結界に触れた敵を燃やすような効果を付与すれば、まさに飛んで火にいる夏の虫でしょう。なぜロークスワインの騎士たちがカラスに囲まれたくらいで倒れたのか、それがわからないので絶対安全とは言えませんが」
 策はどうやら有効であったようだ。次々と突撃して灰となってゆくカラスを見ながら、イザベラはやや安堵した。
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 グリフィンの上はシエンナの想像よりずっと安定していたが、風の冷たさはどうにも避けられない。前に乗るソフィアにしっかりと掴まって、親友の体温でなんとか堪えていた。
 じきに森と湖からなる一帯が眼下に広がった。しかし雲が厚く、薄く霧も出ていて視界が良くない。
「なんか薄暗いわね。神秘の聖域っていつもこんななの?」
 風切り音に打ち消されないように声を張って、シエンナはソフィアに尋ねた。
「そんなに晴れることない場所だけど、なんか変な気候。ちょっと嫌な感じがする」
 ソフィアの声から警戒が伝わってくる。
「シエンナ、あれ見える?」
 そういってソフィアが指さした先は、湖の中央に浮かぶ小さな島だった。島には塔が一つだけ立っている。視界は悪いが、シエンナにも確認できた。
「あの塔が神秘の聖域っていう名前の由来なの。あの中では精霊の存在が強くなる。契約を結んでいない精霊でも、その姿がはっきりと見えるくらいに。騎士になった人は最初にここで自分が契約した精霊と対話するの」
「対話?」
「精霊の核は元の人や獣の想い。でも、それはただの核でしかなくて、騎士の思い、思想とか決意とか、そういうものを精霊と共有することによって精霊の存在は強固になるの。対話にかかる時間は人それぞれとしか言いようがないな。それに、あの塔の中だと時間を忘れるっていうか。本人たちにとってはあっという間だったりするし」
「じゃあ、そこにジェイデンがいるのね」
「行き違いになっていなければ」
「じゃあ行きましょう」
 気持ちが逸る。
「ううん、でもあの塔の周りを飛んでる黒い塊、きっとあれが話に出てきたカラスだね。あれに近づいたら流石にまずいかも」
 ソフィアの言う通り、確かに塔の付近に黒い塊が蠢きながら飛んでいた。よく見ると一匹ずつが黒い靄をまとっており、そのせいで境界がはっきりせずに塊のように見えている。
「……突然倒れた騎士に、あのカラスたちがまとっている黒い靄、うん、間違いなさそう」
 ソフィアが一人つぶやいて頷いている。
「何かわかったの?」
「あれは多分、記憶盗みで、あの靄が記憶。私の精霊がそう感じている。古い禁呪だから、まさか実物が見れるなんて思わなかったけど」
「記憶盗み?」
 シエンナには聞いたことのない名称だった。
「あのカラスたちは人や獣の記憶を食べるの。正確には、カラスは誰かの記憶を無差別に奪って術者のもとへ届ける呪いをかけられている。あの黒い靄はその記憶。記憶を奪われた人はしばらく意識を失うけれど、命に別状はないらしい。とはいっても無抵抗だから、悪意のある人間に襲われたら終わりだけど」
「記憶を奪うって、なんでそんなことを……」
「古くは洗脳に使ったみたい。まっさらな状態の方が思想を植え付けやすいんだろうね。まあ、私に言わせれば、全部忘れちゃったら何かおかしいことは丸わかりだから、工作員としては使えないし。ゼロから新しいことを学ばせるにしても、子育てでもするのかって話で、あんまり使いどころが――」
「ソフィア、もういいわ。分かったから。じゃあ、近づけないの?」
 止まらなくなってしまったソフィアを遮って本題へ戻す。
「ううん、なんとか隙を見られればいいんだけど、って、あれ?」
 急にカラスの群れが塔の周囲の巡回をやめ、何かを目指して一斉に動き始めた。
 行く先を目で追うと、地上に結界術が見えた。カラスはそこへ突撃し、結界に触れたそばから燃え上がっている。
「あれ、イザベラかしら」
「かもね、とにかく、今がチャンスだ」
 ソフィアはグリフィンを塔のある島へ向かわせる。
 カラスの注意は完全に結界の方へ向いており、二人は無事に着陸した。
「あーあ、一匹くらい捕って調べたかったなあ」
 しみじみとソフィア呟いたのをシエンナは聞き逃さなかった。
「ソフィア……」
「冗談よ」
 冗談には聞こえなかった。
「まあいいわ、とにかく、塔へ入りましょう」
 ソフィアの手を取り、塔の入口へと向かおうとする。しかし、ソフィアは動かず、シエンナを制止した。
「いや、イザベラを待とう」
「でも早くしないと手遅れになっちゃうかもしれないのよ」
 シエンナは気が急いていた。しかし、ソフィアはゆっくりと首を振る。
「私が読んだ文献によると、記憶盗みの呪いには生贄が必要なの。それは、カラス一匹に対して、魔女一人」
 魔女、それは魔力を持つ女性を指す蔑称である。大半の人間が魔力を扱うようになった近世以降、公に使われることはなくなった。
「え? でも、あんなにたくさんいたのに、まさか」
「うん、それだけ大量の人間を殺している、ということになる」
 シエンナは息を飲んだ。カラスは何十、何百匹といたのだ。
「きっと、中にいるのは相当危険な相手だ。私一人では、きっとソフィアを守れない」
「……分かったわ」
 シエンナはソフィアの手を引いていた力を抜いた。繋いだ手だけが温かかった。
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 二人の聖騎士、イザベラとモリーはすぐに現れた。
「シエンナ、なぜここにいるのです! ソフィアまで」
 開口一番、イザベラは声を荒げた。
「ごめんなさい、私、二人の会話を聞いていたの。カラスに襲われた話。それで、心配で、居ても立っても居られなくて」
「どれだけ危険なことか、分かっているのですか。それにあなたが来ても――」
「イザベラ、もう来てしまったものは仕方ないだろう。それより、塔の中へは入ったのか?」
 モリーが話を遮る。
「いえ、まだです。お二人を待っていました。理由は――」
 ソフィアが答え、そのまま記憶盗みについて話した。
 二人の聖騎士の顔が次第に強張っていく。
 ソフィアが話し終わると、モリーが眉間にしわを寄せて、ため息をついた。
「実は近頃、ロークスワインで女性の失踪事件が多発していたのだが、なるほど、記憶盗み……」
「あのマーフォークたちの様子がおかしかったのも、きっと記憶を盗まれていたのでしょうね」
 イザベラの発言にモリーが頷く。
「ですが、カラスは全て焼き尽くしました。じきに術者も異変に気が付くはずです。籠城の準備でもされては敵わない。警戒される前に、急ぎましょう」
 イザベラが先頭に立ち、四人は塔へ入った。
 塔の中では、ソフィアの言った通り、精霊の姿が現れた。イザベラのグリフィン、モリーのヴァンパイア、ソフィアのユニコーンが、銀色の揺らめく光のようにその実体をもって、四人の周囲で警戒している。
 シエンナはソフィアのユニコーンに軽く触れると、確かにその艶やかな毛並みを感じることができた。
「これが、精霊……」
 シエンナは思わず呟いた。
「静かに」
 すぐさまソフィアに咎められる。
 音を立てないように進んでいくと、人の話し声が聞こえた。音を辿ると一つの部屋にたどり着いた。
 イザベラが入口の横に立ち、耳を澄ます。
「……だめだ、何も思い出せねぇ」
「俺はもう諦めたよ」
「しかし、俺たち、どうなっちまうんだろうな」
「あのカラスさえいなけりゃ、逃げ出せるが……」
 数人の男が話す声が聞こえる。
 イザベラは三人へ合図を出し、部屋の中へ入った。
「だ、誰だ!」
「新入りか?」
 部屋の中がざわつく。中には数十人ほどおり、大半はぐったりと倒れていた。
「お前たち! 無事だったか」
 モリーが声を上げ、起きて話している数人の男へ近づいた。
「もしかして、俺たちの知り合いか?」
 一人の男が警戒しつつモリーに尋ねる。
「ああ、覚えていないか? 私はモリー。お前たちは私と同じ、ロークスワインの騎士だ」
モリー?」
「ロークスワイン?」
「俺が、騎士……」
「すまないが、何も心当たりがない」
 男たちは嘘や冗談を言っているようには見えない。モリーはひどく悲愴な顔をした。
「くっ……、死でさえも、ロークスワインの騎士の執念を弱めることはできないと言われたものだが……」
 モリーは床にこぶしを叩きつけ、鈍い音が小さく響いた。
モリー、嘆いても仕方がありません」
 イザベラはモリーの肩に手を置いて、男たちの方へ向き直った。
「私たちはあなた方を助けに来ました。この塔の現状を教えてください」
 男らは互いに顔を合わせ、頷いた。
「外にはカラスがいて、塔から出たら襲われる。上に行こうとすると、ひどい音が聞こえて、それより上へは進めねぇ」
 塔の上に行く手段は、内壁をぐるりと回る螺旋の階段しかない。
「ひどい音?」
 ソフィアが返す。
「ああ、身体の骨が耳から吸い出されるような、ああ、思い出しただけでも鳥肌が立つ」
「なるほど」
 ソフィアは、なにか見当がついたようである。
「それと、男が時々現れる。その時にも音がして、誰も抵抗できないうちに女だけを上へ連れて行くんだ。上から戻ってきたやつはいない」
「女だけ……記憶盗みの生贄か」
 モリーはあたりを見回した。確かに女は一人もいない。そして、気付いた。
「王、ロークスワイン王がいない! 他に人がいる部屋はあるのか?」
「いや、この部屋だけだ」
「上にいるのでしょう。どちらにせよ、行かねばなりません」
 そういって立ち上がろうとするイザベラを、ソフィアが引き留めた。
「その前に、対策を練りましょう。みなさん、聞いて……って、シエンナは?」
 周囲を見渡すと、シエンナは部屋の隅で仰向けに倒れている男の横にいた。
「ジェイデン、ああ、ジェイデン。よかった、まだ息をしている」
 その声に、ジェイデンは目を覚ました。
「……私は、ジェイデンというのですか?」
 声は細く、目からはわずかな生気しか感じられない。無理もない。このような極限状態で精神をすり減らしたまま、3、4日は経っているはずだ。食料も底をついているだろう。
「ええ、そうよ。ジェイデン」
「シエンナ、悪いけどあまり余裕がないんだ。そういうのは後にして」
 ソフィアがシエンナを呼ぶ。
「でも……」
「今、一番危険なのはシエンナだ。女だからここにいても掴まるし、戦う力もない。私たちと一緒に行動してくれないと、あなたを守れない」
 ソフィアの言葉でシエンナは冷静さを取り戻した。シエンナの我儘でここまで来た。ただでさえ戦力にならないのに、さらに足を引っ張るわけにはいかない。
「ごめんなさい。私、取り乱してしまって……」
「いいよ。さ、対策を練ろう」
 小さく咳ばらいをして、再びソフィアが切り出した。
「まず、ひどい音。これはおそらく、レイスの能力、死霊の金切り声でしょう。この声を聴いたら生身の人間では立つことさえままならない。レイスの召喚者には無害だから、私たちがうずくまっている間にやられる」
「ああ、ロークスワインではよく使われる召喚術だ。定石は相手に気付かれる前に倒すか、精霊で迅速に倒す。精霊には効かないからな」
「今回の場合、階段を登ろうとすると音が聞こえるということですから、ずっと見張っているのでしょうね。だとしたら不意打ちは不可能でしょう」
「そうですね。ここは私たちの精霊に任せましょう」
 各々、自分の精霊へ向き、同意を得た。
「そういえば、なぜここに囚われている方々の精霊は見えないのでしょうか?」
 シエンナがふと沸いた疑問を問いかけた。
「確かに、見過ごしていた」
 ソフィアが顎に手を当てて顔をしかめた。
「これだけの数の騎士がいて、私たち以外の精霊が見当たらない。精霊は契約者の傍にいるはずだが、まさか殺された? しかし契約が切れていないということは精霊もまた死んでいないはず」
 ソフィアが自問自答する最中、部屋の外から靴音が響いた。
「まさか、もう来たのでしょうか」
 靴音のリズムから、階段を下っていることが分かる。次第にそれが近づいてきていることも。
「ソフィア殿、時間がない。先制攻撃をするなら今しかないぞ」
「仕方がないです。まだ情報が整理できていませんが、やりましょう。レイスは殺して、男はできれば生かして情報を得たい」
 三人は各々の精霊に目配せをする。
 次の瞬間、精霊は目で追えないほどの速度で部屋を飛び出した。それに応ずるように、死霊の金切り声が塔を満たす。耳を抑えるが、気休めにもならない。その振動は体中の至る所から骨を引きずって鼓膜から這い出そうとしているかのようだった。
 しかし、音はすぐに止んだ。どうやら精霊は既に仕事を終えたらしい。
「行こう」
 モリーが少しよろめきながら立ち上がって、イザベラとソフィアが続く。
 脳内の残響に頭を押さえながら、シエンナもなんとか腰を上げる。
「立てますか?」
 目前でイザベラが手を差し伸べていた。
「大丈夫よ。一人で歩けるわ」
 それは少し虚勢も混じっていたが、言葉に出すと体はその通り動いた。
 イザベラは微笑み、すぐにいつもの生真面目な顔に戻った。
「さ、行きますよ」

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 部屋の外へ出ると、見るからに邪悪な貴族風の男がモリーのヴァンパイアによって羽交い締めにされていた。
 モリーはブロードソードを抜いて男へと向けた。
「お前、どこかで見た顔だな。名乗れ」
 男はヒッと小さく声を上げ、野放図に蓄えられた白髪交じりの髭の隙間からぼそぼそと話し出した。
「サイモン=グリッグ、爵位は、こ、公爵。お前、聖騎士のモリー様だろう? 見たことあるはずだぁ、ロークスワインの、同志なんだからさぁ」
 グリッグが目を窄め、目尻に深い皺が浮かび上がる。
「お前のような公爵は知らん」
「今は、まださぁ。でも、じきに、賜るんだぁ。そういう、約束、だからなぁ、へへっ」
 モリーは眉をひそめる。
「記憶盗みで王や騎士を襲ったのはお前か?」
「あぁ、記憶盗み、知ってたかぁ。へへっ、モリー様はどうやって、あれを避けてきたんだ?」
「質問に答えろ」
 モリーは剣先をグリッグの顎へ静かに当てた。
「こっ、答える。だから慌てんな。へへっ。記憶盗みは確かに、俺さぁ。でも、王様は襲っていない。どういうことか、わかるかなぁ?」
 モリーは無言で剣に力を込める。銀白色に光る刀身に、赤く血が流れた。
「王様のために、やってんだぁ。記憶盗みを、さぁ」
「陛下が命じたとでもいうのか」
 モリーの声は苛立ちを隠し切れないようだった。
「やんねぇとさぁ、俺が、こ、殺されるんだぁ。なぁ、モリー様ぁ、助けてくれねぇか、へへっ」
「質問に答えろ! 陛下が、それを命じたのか!」
 刃はすでに顎骨まで達していた。
「お、王じゃねぇ、王の精霊だよ。精霊がさぁ、食うんだよ、記憶をよぉ。俺はただ、献上しただけだぁ。でも、もう、ねぇんだぁ、ストックがさぁ、だから、てめぇらの記憶を寄越せよ!」
 グレッグが叫ぶと同時に、階上から一斉にカラスが舞い込んできた。
「チッ!」
 モリーは剣先をグレッグから離し、そのまま先頭のカラスの首を落とした。イザベラは結界呪文の詠唱を始めながらダガーを抜いて応戦する。ソフィアもダガーを抜いてシエンナの前に立ち、三体の精霊も己の爪、牙、蹄で蹴散らした。
 しかし、やはり数が多い。
「シエンナ、しゃがんで!」
 ソフィアの声を受け、倒れるように頭を下げると、先ほどまでこめかみがあった場所をカラスのくちばしが貫く。数瞬後、その首をイザベラのグリフィンが掴み、地面へ叩きつけた。
「みな、こちらへ!」
 詠唱が終わったイザベラが叫ぶ。
 しかし、重心を崩しているシエンナは動けない。間に合わない。視界が傾いていく最中、シエンナはこの旅に思いを巡らせていた。何の役にも立てなかった自分を振り返った。力にならないのなら、力になれないのなら、仕方がない。記憶でも命でも、好きにすればいい。
 ゆっくりと瞼を閉じたその瞬間、身体を掴まれ、宙に浮いた。そのあと体は地面にぶつかって転がる。
 目を開けるとシエンナは結界の中にいた。
「なんで……?」
 シエンナが自分がいたはずの場所を振り返ると、そこにはシエンナを投げ飛ばして間に合わなかったソフィアがカラスに襲われていた。
「ソフィア!」
 カラスについばまれたソフィアの口から黒い靄が噴き出す。きっとその靄には、シエンナとの思い出も含まれている。
 黒羽の隙間からソフィアと目が合った。結界の中にいるシエンナを見て、ソフィアは微笑んだ。まもなく靄を吐き切り、ソフィアは倒れた。
 ソフィアを襲ったカラスは、その靄をまとって次はシエンナを目掛けて飛び、そして結界に阻まれ、あっけなく灰となった。靄は霧散した。それが最後のカラスだった。
 シエンナは込み上げた吐き気を堪えようともせず、嘔吐した。
 イザベラが結界を解くと、シエンナはよろめきながらソフィアへと駆け寄った。
「ソフィア、ソフィア! ごめんなさい、私が、私が巻き込んだせいで……」
 その姿が痛ましく、イザベラは目を背けた。そして、気付いた。
「シエンナ、あれを見てください」
 イザベラの指さす先では、ソフィアの精霊、ユニコーンが飛び回っていた。
「いったい、何を――」
 言いかけて、シエンナも気付く。ユニコーンは、ソフィアの靄を集めていた。ユニコーンが靄に触れるたび、ユニコーンの姿はより大きく、より鮮明になっていくのがわかった。
 しばらく辺りを駆け回ったあと、ユニコーンはソフィアに歩み寄り、口づけをした。
 するとユニコーンは次第にぼやけて小さくなり、元の姿へと戻った。
「んっ……うう」
 ソフィアの顔に生気が戻り、呻き声と共に意識を取り戻した。
「ソフィア! 大丈夫? 私のこと分かる?」
 肩を掴まれたソフィアは微笑んで答えた。
「よかった、無事だったんだね、シエンナ」
「ええ……!」
 シエンナの瞳から涙が零れた。自分の名前を呼ばれて、これほど嬉しかったことはなかった。
「そうだ、あいつは」
 モリーが思い出したときには、既にグレッグの姿はなかった。
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 すぐにソフィアは回復した。
「新たに分かったことをまとめます。精霊が記憶の靄によって存在を強めることと、記憶は精霊によって元に戻ること」
 ソフィアは自分の気が失われてからの経緯を聞いて、状況を整理する。
「ええ、元に戻って、本当によかったです」
 イザベラが相槌を打つ。
「はい。ですが重要なのは前者の方。グレッグは王の精霊が記憶を食べると言っていました。今までの犠牲者すべての記憶によって、いったいどれほどのものとなっているか、見当もつきません」
「ロークスワイン王の精霊というと――」
「ああ、パラディンだ」
 イザベラやモリーと同じ聖騎士だった者だ。王の精霊は過去の聖騎士の比類ない忠誠を核とする。それはアーデンベイルでも同様の習慣であった。
「同郷の先人と戦いたくはない。だが、行くしかない。王が、そこで待っているのだから」
 モリーは階上を睨んだ。
「行きましょう」
 イザベラも同調する。
「あの、私、私はここで――」
「シエンナも、行こう」
 言いかけたシエンナをソフィアが遮った。
「でも、またあなたが私を庇って傷つくかもしれない!」
「今度は違う。シエンナ、あなたも一緒に戦うの」
 そういってソフィアが懐からロケットを取り出し、シエンナに差し出した。
「これって……」
 シエンナはそれを受け取り、自分のやるべきことが分かった。
「なにか、策があるのですね」
 イザベラの問いにソフィアが頷く。
「では、進みましょう」
 もう、ソフィアは迷わなかった。


 塔の外壁に面する階段には一定の間隔で窓として穴が開けられ、そこから神秘の聖域が見えた。日が落ちるにつれて外はますます暗くなっていくが、窓からの光でなんとか先が見える。
 一階ごとに探索をして、記憶盗みの魔法陣と、おそらくその犠牲となったであろう女の死体の山を見つけた。
 そして、王は見つからないまま、ついに最上階へたどり着いた。
「もし塔の中にいるなら、あとはここだけだ」
 モリーが振り返り、潜めた声で告げた。
 全員を見渡し、全員が頷く。
「行くぞ」
 モリーの声を合図に一斉に部屋へ飛び込んだ。その瞬間、シエンナは気温が一気に下がったような寒気に襲われた。
 部屋は暗く、奥までは見渡せない。中央には椅子があり、ロークスワイン王がそこへ目を閉じて座っていた。
「陛下!」
 モリーが声を上げると、王はゆっくりと顔を上げた。
「おぉ、モリーではないか。よく来てくれた」
 よく来てくれた、それはモリーが主君のもとを訪れるたびに聞いた、王の口癖であった。モリーは主君の無事に頬を緩め、王のもとへ駆け寄る。ロークスワイン王は立ち上がり、それを向かい入れようとした。
 しかし、すべての精霊が異変に気付いていた。
 次の瞬間、モリーは自身の精霊によって横へ突き飛ばされた。モリーの腕に、ロークスワイン王の構えたダガーがかすめ、血が滲んでいた。
「さすがに精霊には分かりますか」
 声はロークスワイン王のものであるが、その口調はもはや別人のものであった。
 モリーは素早く体勢を立て直し、後ずさった。
「お前は誰だ」
 モリーが問う。
「私も元は騎士。礼節に則ってお答えしたいところですが、あいにく名はありません。ですが、姿くらいはお見せしましょう」
 王の姿をしたものがそう言い終わると同時に、身体全体を歪めた。変形、というのが最も妥当であった。身体は精霊と同じ銀色に光り、わずかに膨れ上がる。その中では無数の精霊が蠢いているのが見えた。しかし数瞬でその存在は一つの形へ収束し、最後に帽子を斜めに被ってマントをまとった騎士風の男が一人残った。
「あなたは王の、精霊か?」
 イザベラが男に問うた。その口調は、単なる確認ではなく訝しむという方が良いものであった。先ほどの王といい、今目前に立つ男といい、その姿はイザベラたちが連れている銀色に揺らめく精霊とは異質で、むしろ見慣れているものであった。つまり、人間であるとしか思えなかったのである。
「残念ながら精霊ですよ。今はまだ」
 男は張り付けたような笑みを浮かべて答えた。
「陛下をどこへやった!」
 モリーが声を荒げる。
「どこへもやっていませんよ。この部屋のどこかで倒れていると思いますが」
 当たりを見渡しても、この暗さでは確認しようがなかった。
「――いや」
 男は何かに思い当たったように口元を不自然に歪め、続けた。
「王の体と記憶を持つ今の私が、王その人であるといっても良いかもしれませんね」
「ふざけるな!」
 モリーは激高し、剣を振りかぶった。
 男は腰からレイピアを抜き、上段からのモリーのブロードソードを軽くいなす。
 そこへ既に距離を詰めていたイザベラが、両手剣を振り下ろした。男は身をかがめて避けながら、二撃目を構えるモリーの顔に帽子を投げつけ、視界を奪う。
 モリーの攻撃はそのまま反れた。男はその隙を逃さずモリーの喉元へレイピアを突き出すが、剣の腹をヴァンパイアに弾かれ、剣先は空を切った。
 男は後方へ跳ねて距離をとる。
「やはり、この人数差は厄介ですね」
 男は気味の悪い笑みのままそういうと、口を大きく開けて死霊の金切り声を出した。
「くっ、なんでもありか」
 モリーが呻く。生身の人間では動くことができない。
 三体の精霊が男に飛びかかった。
 男はヴァンパイアが伸ばした手をレイピアで振り上げて切り落とし、そのまま上段から喉元を突き刺す。
 上空から迫るグリフィンの嘴をこともなく躱して首を落とし、突撃するユニコーンを体さばきで避けて足を切る。
 バランスを崩して倒れたユニコーンへ背中側から飛び掛かり、両手でレイピアをもって首へ突き立てた。
 急所を突かれた精霊たちは姿を保てなくなり、そのまま見えなくなった。
「これで多少はフェアになりましたね」
 男はこちらへ向き直った。
「そんなっ」
 シエンナは思わず声を上げた。金切り声はまだ脳内に残響している。
「大丈夫です。精霊は切られたくらいでは死にません」
 イザベラが頭を押さえながら立ち上がった。
「ええ、じきに戻りますよ。あなたたちが生きていれば」
 男はイザベラへ向けて語り掛ける。
「ところで私も精霊なのですよ。王が生きている限り、私もすぐに蘇ることを忘れていませんか」
 モリーが顔を歪めた。
「それはどうだろう。傷を負うごとに、記憶によって得た力は失われるんじゃないかな」
 シエンナの前でダガーを構えるソフィアが、男を試すように言った。
「なるほど、記憶盗みのことはすでにご存じでしたか。でも、私も試したことがないのでわかりませんね」
 男はソフィアの方へ向き直した。
「一つ、聞いてもいいかな」
 ソフィアが男へ問いかける。
「ええ、ご自由にどうぞ」
「一体何が目的でこんなことをしているんだ」
 ソフィアがそういうと、まるで聞いて欲しかったと言わんばかりに男が両手を広げた。
「いいですよ、答えましょうとも。私はね、死にたくないのですよ」
 男はソフィアに向かって歩きながら答えた。
「もう死んでいるじゃないか」
 ソフィアは全く臆さずに突っかかる。男は冗談でも言われたかのように笑った。
「確かにそうです。いや、一度死んだから、死の恐怖が分かったのですよ。自分の存在がなくなることの恐ろしさが分かりますか? 昨日まで世界は私の頭の中で動いていたのです。それなのに、私の存在が消えても世界は回り続ける。それが怖くて怖くてたまらない」
 話し続ける男の背後から、イザベラが音を殺して剣を振るった。
 男はレイピアの柄を刀身に叩きつけ、軌道を反らす。衝撃でわずかに狂ったイザベラの重心を見逃さず、軸足を蹴ってイザベラを転ばせた。そのままイザベラの手を踏みつけ、剣を掴ませない。
 そこへモリーが続く。
「あなたにはこれでいいでしょう」
 そう言うと、男は再びロークスワイン王へと変身した。
「なッ」
 モリーの一瞬の動転を突いて男は間合いを詰め、モリーの腕をひねり上げて剣を落とす。そのままみぞおちへ膝を打ち、モリーは崩れた。
 平然と男はソフィアへ向き直る。
「だから、この体、精霊となったときから、永遠だけを求めました。精霊は年を取りません。王の記憶を奪って契約からも解き放たれました。あとはこの塔から出られるほど存在を確固たるものにすれば、永遠の若さを持った人間が完成するのです」
 男はシエンナとソフィアの目の前で立ち止まった。
「そんな理由であなたは、みんなを、ジェイデンを奪ったの?」
 シエンナが問う。
「ジェイデン? ああ」
 そういって男は再び変形する。
 ソフィアがその隙を突こうとダガーを突き出すが、刀身が触れるより一瞬早く変身が終わり、ジェイデンの鎧によってダガーは弾かれた。
「私がジェイデンですよ」
 男はソフィアが突き出した腕を掴んで追撃を防ぎながら、ジェイデンの声と口調で、彼の表情で、彼の言葉を口にした。そのまま腕の関節を固める。
「じゃあ。私のことがわかる?」
 シエンナが問いかけた。
「ええ、あなたは――」
 男はシエンナの顔を見つめる。そして固まった。
 シエンナはふわりと男へ近づき、首に腕を回して抱きついた。
「――誰?」
 武装もしておらず、体格も並以下。ずっとソフィアの後ろで守られていた女に、男は全く注意を払っていなかった。
 だから気付かなかった。この女が、自分の知らない人間であることを。
「ジェイデンを愛しているものです」
 回した腕には、ソフィアが渡してくれたロケットペンダントが握られていた。その対精霊用の兵器に、シエンナはありったけの魔力を込める。そのロケットから広がる淡い緑の光は、ソフィアの予想通りシエンナの体一つ分ほどの範囲に広がって、密着している男の全身を包んだ。
 男は一瞬でほどけた。同時にロケットの中に入っている結晶が割れたのが分かった。
 男の体内に蠢いていた大量の精霊たちが、大量の黒い靄とともに一斉にあふれ出した。それぞれの精霊は飛び回り、自分の主の記憶をかき集め、階下の主のもとへと戻っていく。
 どの精霊にも拾われずに外へ流れていく靄は、きっと亡くなった人たちの記憶だ。シエンナは指を組んで、静かに追悼した。
 空はいつの間にか晴れ、差し込む夕日が眩しかった。
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 その後、モリーはロークスワイン王を助けたが、王の記憶はあの男とともに消え去ってしまっていた。しかし、モリーの忠誠が消えることはないだろう。
 イザベラは、ロークスワイン王家より多額の報奨金を提示されたが、断った。それが彼女の騎士としての矜持であるということらしい。
 ソフィアは、また新しい技術を研究すべく、書庫にこもっている。記憶と精霊、契約の関係にインスピレーションを得たのだという。
 グレッグは、月明りの掃除屋によって身ぐるみを剥がされ、そのまま息絶えているのが発見された。
 そしてシエンナは――

「初めまして、ジェイデン。ずっと前からあなたのことをお慕いしていました」

 彼らの真実の愛の口づけは、二人が共に記憶を刻み始めてから、為された。
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2019年、就職と趣味の話

大学院に行かないことにした、という記事を書いて、もう一年が立ちました。

僕の思っていたよりも多くの人に読んでいただけたようで、たくさんの感想が呟かれるのを眺めていました。 記事を書いた当初もそうですが、ここ1、2週間にも何かのきっかけで拡散されたようで、自分のことながらもう一年経つのかと感慨に耽っていました。

ちょうど一年ですし、年末です。
区切りがよいので、今年の振り返りをつらつらと書いていこうと思います。

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大学院に行かないことにした

この記事はU-Tokyo mech (東京大学機械系) Advent Calendar 2018のものです。

 ブログを書くのは久しぶりなのですが、こればっかりはどこかに書いておいた方がいいかなと思って重い腰を上げて、重い卒論を置いて、この記事を書いています。 題の通り、僕は大学院修士課程に進学しないことにしました。

 自分語りと言い訳の集まりで、見苦しい長文になってしまいましたが、ここで僕が書き記すものが、同じことで悩むかもしれない誰かや将来の自分自身のためになればと思います。

高校生~大学前半

 僕は高校生の時から、大学というのは勉強し、研究するために行くものだと思っていましたし、周りにもそう言っていました。 大学は一種就職予備校的な部分があって、社会のシステムとしてもう成立してしまっていますが、大学に入って遊び惚ける人を小馬鹿にしていた部分が少なからずありました。

 しかし思い返すと、高校生の時から僕は研究らしいことを何一つしていませんでした。 高校生の僕は受験勉強からの一種の逃避として、また、高校の範囲を超えた勉学に励む友人との足並みをそろえようとして、大学1, 2年生くらいの範囲の物理を勉強していました。 テキストに従って順序だって問題を解くことで、この世界のなんたるかを少しわかったような、とても青臭い全能感の下での勉強は、楽しかったです。
 ですが、本当に物理という学問自体を楽しんでいたかどうかは、今となっては疑問があります。大学入試の勉強の合間にそういう本をちょこちょこ読んで、自分は大学に行くことがゴールなのではない。大学でこんな風に勉強するのだと、自分の中で勝手に「大学に入って遊び惚ける人」よりも自分は優れている、みたいな格付けをしていたのかもしれません。  

 ご存知の通り、大学初等物理なんてものは高校の数学に毛の生えたようなものです。だからこそ高校生の僕でもテキストを読み進めることができていました。 じゃあ、そこから先って何をするんだろう? ……相対論とか、量子論とか、そういうものの勉強だろうか? そう思って、大学に入ってからも、ちょこまかと勉強していました。高校生の時と同じペースで。なんとなく気が向いたときに、数十分くらい本を流し読む、みたいな、到底身につかない勉強ともいえないようなものでしたが。

 大学にはいろいろな人がいます。授業に出て、単位を取れれば良しとする人もいれば、輪講のような勉強会に積極的に参加して並々ならぬ時間を勉強に費やす人もいます。 また、授業にも様々な難易度が存在します。いわゆる楽単は出席と簡単なレポートで単位が来ますが、専門的な授業をしっかりと履修、習得するには、これまた並々ならぬ時間を費やす必要があります。

 自分の勉強は、前者のプラスα程度のものでしかなく、後者の意欲的な学生に対しては全くもって不足していました。

 弊大学には2年生の半ばまで、全員教養学部として扱われ、それ以降はそれまでの点数を指標にどの学部へ行くか選ぶというシステムがあるため、授業の成績が重要になります。

 1年生の講義やることなんて、大学の勉強の入口も入口。春学期は高校の時の勉強の貯金で、試験前にまとめて勉強する程度で何とかなってしまいました。結果、テストの成績は上々で、ほぼすべての学科に行けるほどの点数でした。あとは1年生の冬学期で点数をそれほど落とさなければ、2年生の春学期は必修も少ないので、まあ大体の学科には行けるだろう、という打算をしてしまいました。 冬学期の科目の平均が75点くらいあればいいな、と。

 当然のことですが、そもそも学問に75%覚えておけばいい、なんてことはありません。全部覚えて、理解して、その上に新たな命題の証明があります。なんとなく雰囲気を掴む程度では使い物にもなりません。 結局冬学期の数学はボロボロでした。一方、物理系の科目はまだ高校の貯金とテスト前の詰め込みでなんとかなったので、実際の点数はそこまで悪くありませんでした。
 冬学期は難易度の高いゼミも履修していましたが、サークルを言い訳にして途中から行かなくなってしまいました。 個人的に読もうと思っていた学術書も、たくさん買うだけ買って、ほとんど読み進めていませんでした。

 僕は大学に入って、遊び惚ける人になっていました。
 それでも何とかなってしまっていたのです。テストの総合点だけ見れば悪くなかったし、学術書もチラチラ見ていたので、自分は勉強をちゃんとできる人間であると錯覚していたのかもしれません。しかし、それは高校生の時の貯金を切り崩しているに過ぎません。新たに勉強をして知識の貯金をすることを怠っていました。  

 いざ、進学する学科を選ぶにあたって、僕は迷いました。 点数的にはどこにでも行くことができます。もともとは理学部物理学科に行くつもりでしたが、振り返ると僕が今まで読もうと思って買いためて、読んでこなかった大量の学術書がありました。

 そこで、自分には物理学は向いていないんじゃなかろうかと考えました。安直すぎますけれども。
 上で述べたように、結局僕にとって物理学は受験勉強のストレスを発散するための捌け口に過ぎなかったんじゃないか、と思ったのです。それはおそらく本当にそうなんだと思います。悲しいことですが。

 まあ、そのときはいろいろと考えて、工学部に行くことにしました。ロボットとかAIとかをやるところです。 一年生の終わりか二年生の始まりごろに機械学習という存在を知って、面白いなあと思いました。ちょうど世間でもディープラーニングがやいやい言われだした頃だったと思います。 これも高校のときの貯金なのですが、もともとプログラミングを多少はしていたのでそれが生きればいいなと思ったというのもありますし、その学科の宣伝文句に、「ロボットを作り、人間を知る」みたいな言葉があるのですが、これに惹かれたのだと思います。人間、知りたくないですか?

大学後半

 いざこの学科へ来てみると、3年生の半ばまでは、AIに関する授業はほとんどなく、機械に関するハードウェア寄りの部分が主でした。 新しい概念は多かったですが、まあ覚えれば何とかなるもので、試験前に詰め込むと案外楽に乗り切っていくことができました。

 3年の冬学期から、いよいよ本格的に専門科目が始まります。
 弊学科では、ある程度の期間、自分で何らかの課題を設定して実際にロボットなりプログラムなりを作ってみるという演習があります。 そこで僕は強化学習を自作したリモコンカー的なものに乗っけて、勝手に賢く動いてくれないかな~というのをやっていました。 セットアップを作るのは、工作をしているようなものなので結構楽しかったです。電子部品の通信プロトコルを調べて、ちゃんと指示を出すと指示通り動くというところまでにすごく時間がかかり、肝心の人工知能部分がすごくおざなりになってしまいました。たいして理論を調べもせず、データセットの質も悪く、当然のように失敗しました。まあ、ディープラーニングでなんとかして~みたいなありがちな期待をしてしまったということです。
 とはいえ実際に手を動かして作ってみるというのは楽しかったです。結果できたのは簡単なラジコンとして遊べるくらいのものでしたが。

 この少し前から、知り合いの伝手で小さなゲーム会社で長期インターンをしていました。 楽しんでお金を稼げるのはすごく幸せでした。キャラクターやカメラの動きの制御が主な業務で、自分のセンスで味付けしたものが実際に世に出てカッコいいといわれるのはクリエイター職ならではだと思います。

 4年生の春学期は授業に行きつつ、研究室に行きつつ、インターンに行きつつ、といった感じでした。 研究のテーマがなかなかまとまらず、研究会で発表する前はいつも徹夜でなんとか説得力がある発表にしなければと頑張っていました。スライドも発表も英語でしなければならないので、準備に時間がかかります。中間諮問前の時期はほぼ毎週徹夜でした。 結果、中間諮問では先行研究のソースコードをちょっといじって意味ありげなデモビデオを作り、それっぽい比較をして発表をしました。まあ、その時期にしては悪くなかったと思います。

 結果が悪くなかったというのも災いして、僕は夏休みに大学からも研究からも、完全に足が遠のいてしまいました。
 弊学科ではほとんどの人が院に行くため、夏休みはみな院試の勉強に費やします。そのため研究室で勉強するか、自宅で勉強するかの二択をみな選ぶわけです。 僕はというと、インターンに行って、帰ったらアニメを見るか趣味のプログラミングをしていました。 院試の勉強はしていませんでした。院に行くモチベーションが自分の中でまったく湧かなかったからです。
 そのころは、自宅でずっと、なんとなく考えていました。

 毎週のように発表の準備をしていました。なぜ自分の研究が必要なのか。既存研究と比べて何が優れているのか。それは別の手段ではだめなのか。 新しい手法を考える時間より、自分の研究の基礎的な事項を勉強する時間より、自分の研究の位置づけを考える時間の方が長かったのです。研究の在り方としては良くないですが、そうなってしまいました。僕はなんだか自分の全神経を使って言い訳を考えているような気がしてきました。
 もちろん、自分のやっている研究について、一定の意味はあると思っています。面白いとも感じています。でもそれは数独パズルをみて面白いなぁといっている程度の面白さでした。××だから、××のために、自分は研究をなんとしてもやるべきだ、という大義名分が自分の中で持てなかったのです。
 インターンの存在も大きかったです。大学院に行かなくても、ここに就職できる。楽しみながらお金を稼げる。
 それなのに、苦しんで、お金を払って、大学院に行く理由が、僕にはあるのだろうかと考え始めました。

そもそも研究のなにがつらいのか

 僕は、一つの時期に一つのことにしか集中できません。
 そしてもともと持っている飽きっぽい性格のために、その集中力は短期間でいろいろなところへ飛び移ります。結果として、今まで色々なものに手を出し、様々な分野で初心者を超えたくらいのことができるようになりました。

 僕が普段の生活で最も充実している瞬間は、何かの修練度を上げていくときです。お絵描きなら、はじめは下手くそな絵が、練習をして如実にうまくなっていることがわかるフェーズです。しかし、ある程度うまくなると、だんだん成長率に陰りが出てきます。そういうときは、別の未知のことをまた開拓します。あるいは、昔にやっていた趣味を久々に掘り返すと、前に躓いた壁をひょいと乗り越えてしまうこともあって、再びハマってさらに上達する、という周期の長い趣味スパイラルを形成しています。  

 趣味は、ほかに何のタスクもない状態、あるいはタスクはあるが、ちょっとは先延ばしにできる状態のときに、一番ハマります。前者なら長期休暇時。後者なら、テストがあと一週間後だが、3日前から勉強を始めたら何とか乗り切れる、とか。
 しかし研究は、考えること、やることにキリがありません。常にやることしかありません。しかも、卒論という激重のタスクが一つだけポツンとあります。一日や二日徹夜した程度ではどうにもなりません。常に、一定以上の負荷がかかり続けます。そのためにタスクに切り分けをするのですが、どうにも、僕には苦手でした。
 その結果、僕は趣味に集中できなくなってしまいました。かといって、研究もなんだかやる気にならない。ずっと無意味な時間が経過します。そして夜になって、今日一日、研究をしなかったことを悔い、必死にPCにかじりついて、でも眠たい頭で集中できるはずもなく、さらに無意味な時間を過ごす。その連鎖となっていきました。

 ある方にこう相談をしました。
「就職すると、会社にいないときは自分の好きなことができる。研究をしていると常に研究のことが頭にあって、自分のその時にしたいことができない。だから就職をしたい」
 するとはその方はこう答えました。
「君の言っていることは、逆にすごく研究者向きだと感じる。僕は日々の仕事の合間になんとか時間を作って研究のことを考えてる」

 そのとき僕は、研究者というのは研究が好きな人がなるのだ、という至極当然のことを思い出しました。研究は創造性の極地であり、研究分野もある程度自由に選べます。好きなことを研究にしたらひょっとしたら楽しいのかもしれない、と思いました。でも、現在自分がやっている研究が、どうしようもなく楽しいとは思えないのはなぜなのでしょうか。

 答えは結構簡単に見つかりました。

 研究として成立するには、「新規性」「有用性」「一般性」がなければいけません。
 僕のしたいことは「まだ誰もやったことがないし、学術・産業界にとって有意味であり、普遍的なものであるもの」を作ることではありませんでした。

 料理をしたい、と思ったときに、まだ誰も作っていないレシピを開発して、100人にアンケートを取って定量的にこのレシピのすばらしさを発表しよう! とはならず、既存のレシピでも、自分が、あるいは自分にとって大切な人が、おいしいと思えば僕はそれで満足してしまいます。

 正直なところ、人類の役に立ちたいと思ったことは人生で、ただの一度もありません。また、知的好奇心はありますが、いろいろな学術書を途中放棄する程度に、僕の知識欲は大きくはありませんでした。
 僕の人生のモチベーションは、誰かに楽しんでもらうことでした。「人を知る」というこの学科に惹かれたのも、それが大きな要素としてあります。しかしその手段として、研究というのはあまりに遠回りに思えました。もっと簡単に人を楽しませる方法は山ほどあります。

メリットとデメリット

 2年間研究ができることがメリットになるかデメリットになるかは自分次第でしょう。
 就職も大学院に行くメリットの一つになり得ると思います。就職予備校感があってとても嫌なのですが。

研究

 院に行って自分が楽しいと思える研究をするということも考えました。研究がデメリットになっているから院を選べない。だから研究をメリットにすればよいということです。

 でも、結局僕は就活をしたり、いろんな会社のインターンに行ったりすると思います。まだ修論が遠い先にあるM1のときなどは、趣味に溺れるでしょう。すると、絶対に勉強に時間を使うことができません。絶対に大した研究になりません。基礎も固めることができないでしょう。そして二年後、今よりさらに結果を求められる修論において、いまよりも苦しむことは明らかです。
 自分が、研究ができないという諦めを前提にして話すのはとても嫌ですし、コツコツやったらええやん、って感じなのですが、僕は器用ではないので同時にいろんなことを考えるのは不可能なのです。

 そんな僕が研究を楽しむためには、僕はおそらくなりふり構わず勉強をしなければなりません。就活も、インターンも、なにも考えず、博士課程に行く前提で研究をする。そうすることで、たぶん僕は初めて研究を楽しめる可能性がでてきます。でも、僕にはそんな度胸も、研究に対する熱い思いも持っていません。

 それと、元も子もない話ですが、僕の興味分野的に、性能の良いPCとオープンな論文投稿サイト、arXivさえあれば足りるということもあります。研究室に割り振られる予算を使わなくても自宅に給料三か月分くらいのPCを買えば、結構自由にできるわけです。

 まあ、研究室の一番いいところである、相談できる頭の良い人が周りにたくさんいるという環境はなくなってしまいます。それは間違いなくデメリットです。でも、お金とか、学位をもらうのでなければ、自分が楽しいと思いさえすればよいのです。趣味ですから。直感で、大雑把な理解で、再現実験を行うだけで、楽しいです。理論をすべて理解したうえで行う研究に比べると、薄っぺらいのでしょうけれども。

就職

 もし大学院を修了すれば、国内最大手のメーカーの開発職をおそらくは容易く獲得できます。ネットの情報を見る限り、上手く出世コースに乗れば30~40代で年収1000万に達するのでしょう。新卒一括採用による内部の出世競争みたいなものを考えると、おそらく新卒でなければ入れない、出世できない会社がたくさんあるのでしょう。経験がないし、ろくに調べてもいないのでわかりませんが。
 でも、別に大企業へ行って安定した仕事につかなくても、世の中には幸せに暮らしている人たちがたくさんいますし、大企業に行って何かしらに満足できずに辞めてしまう人もたくさんいます。
 自分はどうしたら幸せになれるのでしょうか。
 どうすれば幸せになれるかどうかわからない将来のために、2年間を確実につらい時間に使うのは、果たして幸せなのでしょうか?

 また、仕事という観点では、IT系の企業だと国内でも転職は一般的で、学歴ではなく前職で何をしたかの方が重要であるみたいです。まあアメリカ的な価値観が入ってきているような感じでしょうか。ベンチャーも多いですし。つまり、いわゆる人気企業に行きたければ院から新卒採用ではなく、就職先で何かしら人に誇れる成果を上げて自分を売り込むという手段もある、ということです。それに、僕が就職するインターン先のゲーム会社だって、今は小さいですが、大きくなっていく、自分が大きくしていく余地があります。そこでちゃんと仕事をして技術を身に着ければ、たとえ転職をするときでも修士号を持っているかどうかは些細な問題となるでしょう。

 しかし、世の中には一つの恐ろしい理論があります。
「ダメなやつは何をやってもダメ」理論です。

 この理論で行くと、研究ができない自分は就職しても結局技術を身に着けたり、人に誇れるような仕事はできない、ということになります。これは一種呪いのようなもので、ブラック企業の人が「こんなことで音を上げるようじゃお前はだめだ。お前みたいなやつはどこに行ったってダメなんだから、雇ってやってるこの会社に感謝しろ」って言うものに近いものを感じます。
 特に、「研究」という抽象度が厄介で、研究ってすべての知的労働の根幹という感じがするので、「研究ができないやつは、どんな知的労働をしたってダメ」というのは激しい説得力を持って襲い掛かってきます。
 でも、だから小さい会社に行くのはやめといて、無理して院に行くというのは、「自分は何をやってもダメなので、頑張って修士号という肩書をもらって実力もないのに大企業に入ります」と言っているみたいでダサすぎないですか?

 あるいは、研究ができないからって就職するの、結局大学2年の時に物理の勉強をしてないから工学部にいったのとおんなじじゃん。どうせまたすぐつらいつらいって言って逃げ出すんじゃないの? という問いが、自然に発生します。どうなんでしょうか。わかりません。

 僕は、適材適所という言葉の方を信じることにします。自分は学術界には合わなかったけど、ゲーム会社で働けば、毎日会社という場所で、商品を遊んでくれる人を楽しませるために、本気で働くことができ、家に帰ってそのときの好きなことをするというルーティーンが自分に合っている。そう期待することにしました。

 それでもしダメなら……ダメなやつなりに楽しく生きる方法を考えます。

さいごに

 院試に受かった上で就職を選ぶというのは、研究室に不義理ですし、本当に行きたかった別の誰かに対しても謝らなければなりません。申し訳ありませんでした。

観客たちは打ち上げ花火を正面から見たかった。

 『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の劇場アニメ版を見てきた。
 1995年版の実写映画をhuluで配信していることもあり、実写版を予習しての鑑賞だった。
 
 先に僕の立場を明らかにしておくと、実写版の方が好きだ。
 これはどちらがより優れているということではない。芸術作品に客観的な優劣をつけるのはおよそ不可能だろう。だが、少なくとも僕の中では実写版の方が好きだったということだ。

 以下、自分がなぜそう思ったのかを考えてみたいと思う。重大なネタバレを含むことを予め言っておく。

 

 今回のアニメ版が賛否両論あることは知っていた。

 思うに、きっと多くの否定的な観客は花火を見に来たのである。

 

 アニメ版『打ち上げ花火』において、カギとなるのは何といってもあの石である。これは実写版にはない要素であった。主人公の島田典道は劇中で何度も石を投げる。「もしも、あのとき、こうなっていれば」と思いながら美しい紋様の入った石を投げると石の中で「if」の形をしたフィラメントが輝き、その分岐点へと戻ることができるのだ。
 だが、それは「現実」ではない。物語の中で、典道は「違う世界」と表現している。
 そして、典道は「違う世界」をヒロインの及川なずなと一緒にいるために作り出した。

 個人的な考察として、「違う世界」を「典道の空想」と捉えるか、「確かに存在する別の現実」と捉えるかによって、物語に対する解釈は大きく変わってくると思う。
 前者は「時間など戻るわけはない」という現実主義である。これは身も蓋もない。映画というのはそもそもフィクションであるため時間が戻ってもいい。この説を採用してしまうと前半、なずなが母親に手を引かれ、典道が「ちくしょう、あの時勝っていれば」からすべて空想ということになってしまう。
 それに、電車の中でなずなが典道の知らないはずの転校について語っていたことも矛盾する。
 このなずなは本当のなずなと捉えるしかない。
 
 だが、僕は典道の空想の方がよいのではないかとさえ思う。
 後者では都合がよすぎるからだ。

 後者ならば、典道は本当に別の現実に行ったのだ。記憶を引き継いだまま。
 最後に石が砕ける。そこには最初に水泳で典道に勝った安曇祐介がなずなと楽しそうに夏祭りを楽しんでいる姿も見える。きっと祐介がなずなを裏切らずに祭りに行った現実なのだろう。
 東京に行った未来も見える。二人で仲良くデートしている未来も。
 石によって見えた未来なのだから、きっと石を投げ続けていれば東京に行けたのかもしれない。
 なずなは最後に「次はどんな世界で会えるのかな」という。きっと「もう現実では会えない」ということの裏返しなのだろう。水面下から、ぼやけた花火を見て、そしてなずなは去る。おそらくこのぼやけた花火は本物の花火だ。本当の現実だからこそなずなは去って行ってしまう。

 なにが都合がよいのか、切ないエンディングではないか。
 それはやはり石の存在である。
 電車が急に海の上を走りださず、典道が石を投げ続けて東京に行って幸せに暮らすような展開になったとしたら最悪のご都合主義になってしまうが、石が砕かれなければそうなっていたかもしれないのだ。
 あるいは、最後に典道が教室にいなかったことから、最後の世界は駆け落ちが成功した世界なのかもしれない。

 また、石は砕けるまで典道の思うままに機能した。たとえ元に戻らなくてはいけなくとも、ありえないはずの現実を望むなんて卑怯なことだ。『時をかける少女』では回数制限により本当に必要な時に使えないという罰がある。だが、『打ち上げ花火』には罰が存在しない。石を使うことによる負の面の描写が全くない。卑怯なままの主人公に共感することはできない。
 


 話は戻る。
 きっと観客は物語と同時に花火を見に来たのだ。

 花火というのは花火大会で一時間そこらの短い時間、はかない美しさ、はかない夏、はかない恋を思って楽しむもの、というステレオタイプがある。観客はそのはかなさを求めて劇場へ足を運んだのである。
 だがしかし、結局最初から最後まで、花火は現実かどうかの判断方法としてしか使われなかった。
 これがこの作品の文学性を高めているところだろうし、おそらく観客が最も不満に思っていることだろう。
 
 映画では本物の打ち上げ花火を楽しませてはくれなかった。平べったい花火、変な形の花火、水でぼやけた花火。
 これは典道が石を投げて違う世界に行ってしまったためだ。なんの努力もせず、石を投げただけの卑怯な主人公。それも一度きりでなく、想定どおり行かなくなるたびに投げる。そのたびに今度は本物の花火を見られるのだろうか、と期待する。だが、結局見ることはできない。


 キャラクターに共感できず、切ない気分で花火を見ることすら叶わなかった観客が「つまらなかった」というのも無理はないことに思う。

 


 ここまで、散々に言っているが、実は僕はこの映画を楽しめた。
 それは実写版との違いを見比べるということでもそうだし、シャフトの映像表現も好きだし、詳しく語られないことを補完するという楽しみも十分にあった。


 では、ここからなぜ実写版の方が好きだと感じたのか、述べていく。
 ここからは実写版のネタバレも含むので、注意してほしい。

 


 実写版は「if もしも」という短編連作ドラマの一つとして撮影された。
 おそらくアニメ版とのもっとも大きな違いは、典道が負けた場合と勝った場合がどちらも純然たる現実であったことである。
 記憶の共有はないし、結局どちらが正しいということはない。
 そして、アニメ版の石のような魔法のような存在はない。
 登場人物は冷酷な現実を歩く。

 そのため、なずなの「東京に行って水商売でもする」というフィクション性を大きく高めているのだ。
 実写版ではなずなは初めから電車に乗る気などなかった。
 駆け落ちをするという夢物語は帰りのバスが来るまでの、現実への小さな反抗だったのである。そのため、なずなは切符すら買わずに電車が来ても「あ、帰りのバスが来てる」と言ってあっさりと帰ってしまう。

 アニメ版ではどうか。
 あの石がある。石自体が大きなフィクションになっているせいで、東京に行って水商売とかアイドルをする、というのが現実感を帯びすぎてしまう。
 中学生(実写版では小学生)が駆け落ちをするなんて、それだけでフィクションなのだ。それをわかっていて、なずなはそもそも電車には乗らない。

 実写版では自分が転校することさえ典道に言わなかった。
 なずなは典道にこう言う。

「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」
 
 なずなは典道に再び夢物語を語るのだ。

 どういう気持ちでこの言葉を口にしたのか。茶目っ気なのか、自分の寂しさをごまかそうとしたのか、典道に楽しみだと思っていてほしかったのか。わからない。だが、切ない。途方もなく切ない。
 現実を自分だけで受け入れており、それはなずなと観客しか知らない。

 最後には花火が上がる。すでに典道はなずなと別れ、典道は下から、灯台へ行ったほかのメンバーは横から、花火を見る。
 切ない花火だ。典道はなずなともう会えないことを知らない。


 完璧な構成であると思う。

 

 最後に僕の感想として、これは少年少女が現実を知る物語なのだ。
 子供の力ではどうしようもない現実。

 

 花火はどこから見ても絶対に丸いし、子供はどんなに背伸びをしても絶対に子供なのである。

ソフトウェア第二のまとめ4/10~24

ソフトウェアの授業で学んだことを備忘録的にまとめます。

4/10 Linuxの使い方

  • Terminal
    Terminalの立ち上げは[Ctrl]+[SHIFT]+[T]

  • shellコマンド
    リダイレクト: 標準入出力をファイルから、あるいはファイルへ行う
      command > file でfileに標準出力(上書き)
      command >> file でfileに標準出力(追加)
      (標準エラー出力も共に切り替えるためには >&, >>& とする)
      command < file でfileから標準入力
      
    パイプ: 標準出力を別のコマンドの標準入力へ接続する
      command1 | command2 | …

  • Emacs, vi の使い方、ショートカットキー

  • Java, Perl, Python, Go のサンプルプログラム

  • Makefile の基本的な使い方

4/17 デバッグ

  • コメントを付ける

  • インデントをする

  • プリント文デバッグ
    正しくプログラムが動いているか、print文で記述する。
    print文を削除するためにプリプロセッサを用いるか、コマンドラインスイッチを用いる。

プリプロセッサ

//コンパイルの際に gcc -o test -DDEBUG test.c などとすると...部分が実行される。
#ifdef DEBUG
...
#endif

コマンドラインスイッチ

//実行の際に ./test -d などとすると...部分が実行される
int Debug = 0;

int main(int argc, char *argv[]){
    while(( argc > 1 ) && ( argv[1][0] == '-' )){
        switch (argv[1][1]){
        case 'd':
            Debug = 1; break;
        }
        argc--; argv++;
    }
    
    if(Debug){
        ...
    }
}
  • 対話型デバッガを利用する
    コンパイルの際に -g オプションを付けてgcc -o test -g test.cコンパイルする。
    デバッガを呼び出すときはgdb ./testとすると、行頭に(gdb)と表示されるプロンプトが出てくる。以下、コマンドを示す。
     run: 実行
     bt: 呼ばれた関数をバックトレースすることでプログラムの停止位置がわかる。
     up: 停止位置から関数をさかのぼっていく。
     break (関数名): 関数にブレイクポイントを設定する。この状態でrunをすると設定したブレイクポイントで停止し、print (変数名)で変数に代入されている値を見ることができる。
     next: ステップ実行する。(ステップの単位がよくわからない)
     continue: ブレイクポイントで止まっていた実行を再開する。再びブレイクポイントに差し掛かるとまた停止する。

  • 告白的方法によるデバッグ
    他人にプログラムを説明して解決(しばしば自己解決)する。

  • タイピングソフトtrrの導入
    Emacs用のタイピングソフトtrrを利用してタイピングを早くする。

4/24 EmacsEmacs Lisp

  • バッファとミニバッファの利用
     Emacsを起動すると*scratch*というバッファが起動する。これはLispインタプリタとなっている。実行は行末で[Ctrl]-Jを打ち込む。
     setq: 変数宣言、代入
     defun: 関数の定義。(defun <関数名> (<引数>) <処理>)の形で定義する。
     cond: 複数の条件分岐をする場合に用いる。(cond (<条件1> <処理1>) (<条件2> <処理2>) ... )という形で用いる。常に条件を成立させるためには<条件>をtとする。
     if: 場合分けが二つの場合に用いる。(if <条件> <条件が真のときの処理> <条件が偽の時の処理>)の形で用いる。

  • 線形再帰と線形反復
    線形再帰再帰の元の関数へ収縮しなければ戻り値を渡せないもので、後で実行するものを覚えておかなければいけない。
    線形反復は渡された値から最終的な戻り値が導けるため、覚えておくべき変数が少ない。

  • スコープ
     let: (let (<ローカル変数の定義>) <処理>)の形で用いる。このローカル変数はletの内側でのみ値を保持する。

  • 反復プロセス
     while: (while <条件> <処理>)の形で用いる。  do: (do (( i 0 (+ i 1))) ( >= i 4 ) <処理>)のような形で用いる。Emacs Lispで用いるためには(require 'cl)とする必要がある(らしい)。  dotimes: (dotimes (i 4) <処理>)のような形で用いる。

  • 非ローカル脱出 catch と throw
    (catch <タグ> <処理>)(throw <タグ> <戻り値>)の形で用いる。catchの処理の中で同じタグを持つthrowが出てきたとき、catch の戻り値はthrowの戻り値となる。タグは'(タグの名前)と書く。ここで、'(quote関数の略記)は評価しないことを指示する(らしい)。参考
    同じタグを持つthrowが出てこなかったときは、処理の最後に出てきたタグの名前を返すのだろうか? よくわからない。

  • 無名関数、クロージャ
     lambda式: 名前を持たない関数を定義できる。(lambda (<引数>) <処理>)の形で用いる。
    (setq f #'(lambda ...))や、(funcall #'(lambda ...))など#‘(fanction関数)を用いて評価しないことを指示する。役割としてはquote関数と同じだが、コンパイルするときに便利(らしい)。さらに言えばlambdaはquoteする必要がない(らしい)。参考
    また、funcallは関数を呼び出す関数で基本的にquoteを付けて利用する(らしい)。

  • 手続きの抽象化
    関数を作ってブラックボックス化することで利用しやすくする。
    手続きを扱う手続きを高階手続きという。

  • データの抽象化
    データを組み合わせた合成データを作ることでデータを抽象化する。(具体的には線形結合において、有理数複素数多項式など、さまざまな種類の線形結合を一つの関数で行えるようにできるなどのメリットがある)

  • List
    Emacs Lispでは、
     car: リストの第一要素を取り出す。
     cdr: リストの第一要素を除いたリストを返す。
     cons: リストの合成を行う。(cons 1 '(2 3 4))などの形で用いる。この例では(1 2 3 4)を返す。
     reverse: リストを非破壊的に逆順にする。
     nreverse: リストを破壊的に逆順にする。
     dolist: リストの要素を順にとる。(dolist (x '(1 2 3 4)) <処理> )などの形で用いる。
     mapcar: リストの要素に対し、それぞれ関数を適用する。(mapcar #'car '((1 2) (2 3)))のような形で用いる。pythonでは同様の関数としてmapが存在する。
     reduce: 二つの引数をとる関数を利用して、リストの要素に対して前から順に畳み込みをする。
     mapcan(Emacs Lispでは cl-reduce, cl-mapcan): 引数のリストに対して関数が返した要素のみから新たなリストを作る。pythonではfilterと呼ばれる。

 全然まとめ終わらなくて非常につらいです。

ご挨拶

saramechです

 機械を作ったり情報を操ったりする大学生をしています。

 もうすぐ夏休みなので、長期休暇中のモチベーションを保つためにブログでもやるかと思い立ち、始めることにします。

 おそらくプログラミング関連の話題が多いと思います。
 あとは思ったこととかを唐突に書くかもしれません。

 よろしくお願いします。